【平凡】
「どうも、「ジョー」です。今回は、、、あ~え~となんやっけ、、、サラリーマンの日常について喋っていこうと思います、、、、、、皆さんは、えーと、、、」
カタカタカタ、カチッ。
「どうも、「ジョー」です。今回はサラリーマンの日常について喋っていこうと思います。皆さんは、普段どのような」・・・
よし。今日の分も完了。
毎日、生活の日課として、朝5時に起床し出勤するまでの時間の間、動画編集をシコシコと進める。何故そんな早朝に動画編集を行っているかというと、奥さん、子供に邪魔をされない時間というのが早朝しかないからである。
2020年、ユーチューバーというものは世の中にとても浸透した存在となっている。ほんの数年前まではユーチューブというものは、動画を編集することのできる、一部の人たちが動画を投稿するプラットフォームだったと記憶していた。
しかし、いつしかCMでも『やりたいことで生きていく』というようなキャッチコピーもあったように、ユーチューブが金を得る手段の一つになるのだ、ということを世の中の人が認識するようになった。
するといつの間にやら、そんじょそこらの一般庶民までもが動画投稿をする世の中になってしまっていた。
いまやユーチューブで暇をつぶすのに時間を持て余す、ということがなくなってしまった。1時間、2時間、いや、1日中、ユーチューブの動画を見続けたってあきることがなくなってしまった。
様々な動画がありすぎるからである。
そんな私はユーチューバー『ジョー』としてかれこれ1年間、動画をユーチューブに投稿し続けている。
理由としてはシンプルに、金が欲しいからである。
まぁ、ユーチューバーとして動画投稿を始めてから1日たりとも動画投稿をサボっていないことだけは自分で自分をほめてあげたいと思っている。
毎日動画を投稿する、ということは私にとって決してハードルの低いことではないからである。
というのも、私は本業は普通のサラリーマンであり、とあるメーカーにてシステム担当として働いている。残念ながら給料はとても低い。
朝7時30分には車で家を出て、片道30分運転し、8時には会社に出社し、そのまま定時の17時を余裕で過ぎ、平均3時間の残業を平然とこなし、20時に仕事を終え、21時前に帰宅する、というのが私の普段の日常である。
家に帰ると子供はもう寝ているが、奥さんがいるので私が自分のしたいことを自由にできる時間など、私が普通の生活をしている限り存在しない。
もちろん、奥さん、子供がいてもできることなら問題はない。
しかし、私は自分自身がユーチューバーとして活動していることを家族に知られたくはない。
家族どころか友達、知り合い、など現実世界で認識のある人には1人であろうとも知られたくはないと思っている。
動画編集なんてしているところを奥さんに見つかろうものなら、当然ながら
「何を編集しているの?」
という質問がくることは間違いない。
その問に対して私が
「ユーチューブに投稿する動画編集。」
と答えようものなら
「は?そんな意味わからんことしてるくらいなら家事手伝ってよ。ユーチューバーなんてアホくさい。自分の年齢考えたら?恥ずかしい。」
というようなご指摘をいただくのは間違いない。
まぁ30歳にもなった中年おじさんが、小学生と同じように
「ぼくゆーちゅーばーになる」
と言っているのと大差はないだろう。
私自身も、もし、私の知り合いに
「真剣に俺、ユーチューバーになろうと思うんだけどどう思う?」
と相談されたとしたら、私は真剣に
「やめといたら?もう少し現実的に考えたら?そんなことしてる暇あんの?」
と聞き直してしまうだろう。
なので私は自分がユーチューバーである、ということを奥さんにバレるわけにはいかない。ということは動画編集を行っているところを奥さんに見つかるわけにはいかないのである。
以上を考慮した結果、私は朝早く起きて動画編集を行うという習慣を作ってしまった。
朝早く起きる理由としては「トイレが近くて起きてしまう」という理由で、怪しまれることもなく、丸く収まっている。
動画編集は朝に行っているが、そもそも動画を投稿するためには動画そのものが必要である。
動画を編集する時間ですら、必死に捻出している状態なのにいったい動画部分をどうするのか?
私の場合、その部分に関しては問題ない。
というのも出勤途中の車の中での独り語りを撮影しているからである。
朝、車に乗り込んだ後、私がまず始めにする作業は、シフトレバーの前部分、CDなどを入れるところの下の、少し物が置けるところにスマホをセットし、動画を録画できる状態にしておくことである。
そして奥さんに内緒で買ったピンマイクをカッターシャツの胸元にセットし、準備が整ったところで録画スタート、喋りだす。
「どうも、「ジョー」です。今回は、、、あ~え~となんやっけ、、、サラリーマンの日常について喋っていこうと思います、、、、、、皆さんは、えーと、、、」
私は人見知りの喋りベタなので、トークが上手いとはお世辞にも言えない。
そのくせ喋る内容もろくに考えずに行き当たりばったりでとりあえず喋っている、という内容なので、録画した動画には私が喋っていない、ただただエンジン音だけが聞こえる時間というものが結構ある。
しかし、この喋っていない空白の時間というものはあまり気にしなくていい。
なぜなら編集でその部分をカットしてしまえばよいからである。
そもそも一発でちゃんとスラスラ喋ることができるのであれば、空白部分をカットする、という余計な編集はする必要性はないのだが、喋りベタの私にはそんなことはまず不可能である。
私のこの独り語り動画にて、大きな問題が2つある。
1つめは、私のビジュアルがよくない。
イケメンや美女であれば、トーク力がなかったとしても、その人の顔をただただ見たい、という需要が少なからずある。
私自身も、どうせ見るならかわいい女の子が喋っている動画を見たい。
残念ながら私はお世辞にもイケメンとは呼べない。
しかし、名前は忘れたが、いつか見たユーチューバーの動画にて、人が映像に映っている方が再生されやすいということを言っていたので、一応私も私自身を撮影している。
とはいえ顔にはしっかりとマスクを着用し、カメラ自体も下は腹から、上は私の顔の鼻くらいまでだけを映すようにしているので顔のビジュアルまでは全くわからない。
正直、顔がわからないのであれば私を撮影している意味自体ないのかもしれない。
大きな問題の2つめは、これは根本になるのだが話す内容が超絶に面白くない。
トーク動画のトーク部分がそもそも面白くないのであれば、いくら動画編集で効果音を入れたって、テロップを入れたって、焼け石に水である。
話す内容も、朝ご飯を1人で食べている最中に思いついたものだからそもそも薄い。
自分自身、聞いてられるものではないということがわかっているので、自分で自分の動画を見返すということは動画編集のタイミング以降はしたことがない。
この大きな2つの問題もあり、私の動画はほとんど再生されていない。
1つの動画につき再生される回数も平均10回ほどだ。
何万回、何億回再生される動画が世の中にはゴロゴロあるという中、私の動画はたった10回。
チャンネル登録者は47人。
ユーチューブにてチャンネルに広告費が払われる条件としてチャンネル登録者数1000人以上、という条件がある。
1000人以上、、、私は1年間続けて47人。
正直なところ1000人に届くイメージがわかない、というよりは自身がない。
顔出しもしない、トークも面白くない、そんなやつのトーク動画をチャンネル登録する人が世の中に1000人もいるはずがないと私自身も感じる。
むしろこの47人は何を思って私のチャンネルを登録しているのか聞いてみたいところだ。
【天変地異】
車の中で録画し、翌朝、編集し投稿する。
そんな毎日を、ただ希望もなく、なんとなく作業として繰り返していたとある日の朝。
いつものように昨日録画した動画を編集し、ユーチューブに動画投稿を行った。
そしていつものように作業が終わったので、ユーチューブを閉じようとしたその瞬間、昨日までとは異なる文字が私の視界に入ってきた。
チャンネル登録者数 2245人
ん???お??ほほ??
2245?ほほほ???
この時点で朝5時45分だったのでまだ寝ぼけているのかと思ったのだがそうではない。
ブラウザを閉じ、再度ユーチューブを開いても、やはり2245人。
最初こそ意味がわからなかったのだが、再生回数が1万回を超えてしまっている動画を1つだけ確認した。
気持ちが多いにフワフワした状態だが、サラリーマンは時間がきたら会社に出勤しなくてはならない。
出勤しなければならない時間がきたので、フワフワした状態にて出勤し、うわのそらでその日の勤務を終えた。
そしてその1万超え動画のコメント欄を見て原因を把握することができたのはその日の夜。
コメント欄はおおよそこんな感じだった。
「菅のいうとおり全然面白くはないが暇つぶしにはなる」
「お前は俺かというくらい考えが浅い」
「菅さんってこんな動画見るのね」
「可哀そうだから私もチャンネル登録してあげよ」
菅さんは最近よくテレビに出ている人気俳優だ。
コメント欄から推測する限り、どうやら菅さんが、ラジオ番組で私のユーチューブチャンネルについて喋ってくれたようだ。
菅さん自身、俳優になる前はとある会社でシステム運用の仕事をしていたらしく、私と境遇が似ていたらしい。
というよりも、昨日までの登録者47人の中の一人が、あの人気俳優だったなんてことが信じられない。
本人も普段は完全なプライベートアカウントを使用している、ということだったようなので、47人のうちの誰なのかは全くわからない。
もうそんなことはいまさらどうでもよい。
昨日の47人全員と一緒に酒を飲みかわしたい気持ちだ。
というよりも芸能人ってすごいなってのを身に染みて感じる。
私のような庶民が1年間積み上げてきたものを、芸能人が数分だけ、ちょろっと喋っただけでいとも簡単に越えられてしまうこの感じ。
人脈作りはとても大事です、と自己啓発本にもいろいろ書いていたりしたが、こういうことなんだなというのを身に染みて感じた。
まぁ、私と菅さんの間に脈なんてないのだが。
とはいえ1夜にして登録者数が急増したものの、ユーチューブで広告費を得るためにはチャンネル登録者数1000人、という条件の他にもクリアしなければならない条件がある。
それは直近12ヶ月の総再生時間が4000時間を越えている、というものだ。
今の私では全然届いていない。
しかし、昨日までの私と今日からの私は全然違う。
手が届かなく感じない。
なぜなら2245人の登録者がいる、いや、2245人の視聴者様達がいるからだ。
モチベーションが昨日までとは全く違うのを感じる。
毎日続けてきてよかった。
早起きを続けてきてよかった。
今まで生きてきて自分を一番ほめてやりたい。
なんだ、世界は輝いているんじゃないか。
30歳にして始めて知ったわ。
【コメント】
私の親戚に私の1歳下の男で小説家を本気で目指している人がいます。
未だに全く功績がなく、彼の両親も呆れてしまっており、特に彼の父親とは仲がとても悪くなってしまっているそうです。
しかし、いい年齢になっても定職につかない彼のことは私もどうかと思う部分はある一方で、
自分のやりたいことに素直に向き合っている彼のことを心のどこかですげぇな、と思っている自分もいます。
そんな彼にひっそりと感化された私は今回このようなしょうもない文章を
世間様に公表してみた次第であります。
今更ながらですが、上記の文章は完全なるフィクションですのでよろしくお願いします。
実際に書いてみてわかったけど
小説家の人ってすごいわ。
ほんと何かいてるのかわかんなくなる。何をかきたかったのかわかんなくなる。
最後までかききるのがめんどくさくなる。
今回は10分くらいで読めるように4000字にしましたが
4000字でも多い。ほんと多い。
4000字で多いと感じる私には、やっぱり小説家というものは
とても尊敬にあたる職業でありますな。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
おそまつさまでした。
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